自分の経験から商品を開発するアイディア、ヒントを探している人に、紹介したい著者がいます。
最近、読み続けている本がありまして、読み続けている本、というよりも読み続けている著者、のほうが正鵠を射ているかもしれません。
正鵠を射る、なんてなかなかお目にかからない言葉だなぁ、と書いていて思いましたが、例えば「畢竟」とか「またぞろ」とか、使ったことのない言葉が結構登場する時点で、村上龍や村上春樹とは違った興味を覚えたのです。
正直、ほかの言葉に変えたほうがいいんじゃないかな、、、なんて思ったのも事実。
ですがこの作者の本を1ヶ月程度で49冊も読むとむしろ、他の作者の本では見ない言葉にこそ、僕はこの作者に興味を持つのではないか、とも思ってしまいます。
この作者とのキッカケは、1月末に中洲で出会った人から『深夜特急』が登場したことです。
『深夜特急』とは沢木耕太郎さんが書いた紀行小説で、バックパッカーなら一度は読んだことがある、、、どころか、この本を読んでバックパッカーになった、という人もいる本。
バックパックに『深夜特急』を忍ばせているバックパッカーもいるというほど、知る人ぞ知る本です。
「読んでおくといいと思います」という話になりまして、早速『深夜特急』の6冊合本版をKindleで購入し、すぐに読みはじめ、そして読み終えました。
この手の本を読むとかつて旅したタイやカンボジア、トルコ、アテネからロドス島までの船旅やイスタンブールからブダペストまでのボスポラスエキスプレス、ユーレイルパスを使ったヨーロッパの鉄道旅、スイスのグリンデルワルトから眺めたアイガーとユングフラウ、アルプスホルンを持つ男性がいた草原、曇り空が似合うベルギーの街並み、ベルギー国鉄のストライキとベンツ製のタクシーでオランダのスキポール空港まで向かったことなどなどを思い出すものでして、
気持ち新たに、原点を胸にやっていこうとなったとき、たまたま目についた本が『深夜特急』ならぬ、『珍夜特急』でした。
著者はというと、クロサワコウタロウさん。沢木耕太郎さんのファーストネームと同じことから、冗談半分で『珍夜特急』にしたのだろうと思ったところ、どうやらそれは本当っぽい。
おふざけの旅行記かな、、、と読者レビューを見てみると、思いのほか評価が高い。
Kindle unlimited対象ということもありまして、まあ読んでみようかな、と気軽に読みはじめました。
読んでみて、割とすぐにクロサワコウタロウさんへの評価を改めました、なぜならば、彼がバイクを駆って行ったユーラシア大陸横断の旅を記した、ほぼノンフィクションであり、冗談半分で書いたものではなかったからです。
ほぼ、とは彼がそう書いているのですが、なんでも記憶を頼りに書いているからだとか。まあ、正直な人なんだな、と思います。
バックパッカーとバイク旅の違いを語り、バイク乗りとはこういうものなんだ、という散見される主張の部分は「そんなものなんだ」というか「ふーん」という感想でしたが、自身の経験を書いているからか、面白い。
一人でバイクを駆って横断していくシーンもあるのですが、大半は道中知り合ったバイク乗りとの旅。
一人だと寂しいというか、人を求めてしまうかのような心境は同意するところでして、バックパッカーとバイク旅の違いはあれど、共感するところが多いノンフィクションでした。
この『珍夜特急』はユーラシア大陸横断編と南北アメリカ大陸縦断編のSeason2があり、両方とも読み終えたあとはやや違和感を感じながらも、彼の書いたミステリーやSFも読んでみました。
「畢竟」などの聞いたこともない言葉が出てくるのは相変わらずながら、よくできているなと思ったのは、話の筋道が鉄板の型になっていたことです。
主人公は男性であることが多く、ヒロインが登場する。
主人公はどこかに悩みを抱えておりスーパーヒーローではない。
一方ヒロインは活発明朗で、頭もキレるし、頼りがいがある、しかしどこか影があったりする。
主人公や登場人物の全貌やその後は明らかにならず、隙間を残しておき、読み手の想像力に委ねる。
隙間を残しておきながらも伏線は回収するようになっており、喉に小骨が刺さったような感は残さずに、清涼感と共に話が終わること。
何かしらコンプレックスを抱えている主人公が、それと向き合い、それを克服していこうとする葛藤が描かれ、それをサポートするヒロインやほかの登場人物も好感が持てるように描かれており、まあ気持ちがいいんですよね。
仕事もあるので、『珍夜特急』のあとは、一冊完結か上下巻本の本を順番に読んでいき、コレは長そうだからと敬遠していたシリーズにようやく着手。
それが「惑星ハシエラシリーズ」と呼ばれる一連の本です。
全部で第六弾、合計すると32冊あるそのシリーズは、宇宙も舞台になるようで疑うことなきSF、、、この歳になってSFもなぁ、、、宇宙空間もなぁ、、、なんて思いつつ、かつ32冊というボリュームにちょっと辟易していたのですが
読み始めると、止まらなかったんですね。
1万年という時間のなかで繰り広げられる物語は、ハンガークリフ的な時間を超えても受け継がれる登場人物の特徴と、同じ時間軸で繰り広げられる異なる空間での出来事とが上手く設計されておりまして、よくできているんです。
そして、この作者の特徴の一つになるのですが、地図というか地理というか、文化風習というかが上手く描かれています。
実際の地名を変えてはいますが、かつてご自身がバイクで旅した経験が、小説でも活かされています。
クロサワコウタロウさんがもともと物書きを目指していたのかはわかりませんが、彼の文章の原点には、ユーラシア大陸横断と南北アメリカ大陸縦断のバイク旅があるのだと感じます。
自身が夢中になったこと、経験を活かして小説を書く。
自身の経験から自分自身を知り、MSPと言っていいかもしれませんね、それを活かして小説という商品をつくっている。
メカニカルなモノの描写も細部に渡り設計されていて、小説に登場する宇宙船やホバー型戦闘機、潜水艦やステルスヘリコプターなどなどから情熱が伺えるのも、彼がバイクで大陸横断や縦断している経験によるのでしょう。
彼の理想世界は、小説を読むと感じられるところもあります。
国境を超えて、人種を超えて、というかそんなところがキーワードになりそう。
バックパックを持って世界を旅した人であれば、共感する理想世界かもしれません。日本人ぽいと感じることも僕にとってはありますが。
小説がどの程度売れているのかはわかりませんが、透けて感じられるのはいい生き方だな、ということでした。
もし彼の小説を読んでみようかな、と思うのであれば、『珍夜特急』から読まれることをオススメします。
『珍夜特急』からクロサワコウタロウさんの経験、生き方、考え方を感じられるようになると、その他の小説を書いたのは、なるほどな、と感じられると思います。
経験から商品を開発する。
「引き算の卓越」、ないものねだりをしない、彼の原点が感じられると思いますので、機会がありましたら手にとってみてください。
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